現在の日本では、物流関連の深刻な人手不足によって輸送力の大幅な低下が懸念されています。
従来の物流システムでは、過疎地や離島などに対応しきれない状況に直面しつつありますが、分かっていても改善が難しいというのが現状です。
近年あらゆる分野での活用が急速に進むドローンですが、物流業界においても例外ではありません。
ドローンを活用することで荷物の輸送や配送が効率化され、従来の運送方法では難しかった地域や状況でもアクセスが可能になるという、物流業界に革命を起こすことを期待されています。
しかし、どのような業界においても新技術の導入には様々なハードルや懸念事項があります。
本コラムでは、物流ドローンの活用方法とこれからの可能性、具体的にどのようなドローンが登場しているのかご紹介します。
物流ドローン登場の背景
物流ドローンの登場は、技術進化と市場の要求がマッチした結果と言えます。
これまでの物流システムは時間と人手がかかり、特に遠隔地へのアクセスは非常に限られています。
人件費やガソリン代の高騰により、配送にかかる費用は値上げが続いている一方、限られたリソースで行うオペレーションは限界を迎え、サービスレベル(配送にかかる日数等)を見直す企業も増えてきています。
こうした問題を解決するために、ドローンの技術が注目を集めはじめました。
物流ドローン導入実現のために
あらゆる分野に活用が可能なドローンですが、当然ながらドローンを導入するだけで全ての課題が解決するわけではありません。
物流業界にドローンを導入するにあたって、まず技術面での課題が挙げられます。
一般的な空撮とは異なり、自律飛行や適切な積載能力、配送が可能なだけの飛行時間など、実際の現場で必要なパフォーマンスを発揮するためには、高度な性能が求められます。
その他にも、パイロットの確保・プライバシーの保護・法律の問題など、課題は山積みです。
現在は国が主導となり、急ピッチでドローンの社会実装を加速させるための法整備が進められており、各社が積極的に実証実験を行っている段階です。
災害発生時に薬や食料を届けたり、行楽地へお弁当を配送したり、まだまだ規模は小さいものの、確実に物流業界におけるドローンの導入は進み始めています。
物流ドローンのメリット・デメリット
物流業界に大きな革新をもたらすことが期待されるドローンですが、前述の通りメリットだけでなくデメリットもあります。
物流ドローンを導入するメリット
物流ドローンを導入するメリットの1つとして、従来の方法では配達が難しい地域に対しても輸送が可能になるという点が挙げられます。
空を飛ぶので交通渋滞にハマることも無く、必要な場所に必要なものを迅速に届けることができるでしょう。
これらのメリットは、特に災害発生時の物資輸送(医療物資や食料品)などに大きな期待が寄せられています。
またドローンの飛行を自動化することができれば、1人のオペレーターが短時間で何件もの配達を行うことが実現します。
人が自動車を運転するよりも人為的ミスの軽減に繋がり、配達状況も遠隔地から簡単にモニタリングできるようになるでしょう。
「長時間拘束で重労働」というイメージの強い物流業界ですが、物流ドローンの登場により働き方が変化することで、人材確保の課題も改善されるかもしれません。
物流ドローンを導入するデメリット
まず、安全な離着陸場所の確保が必要となる為、最低限事前にポートの整備を行う必要があります。
どこにでも着陸できるわけではないので、例えば個人宅単位で配送を行うのはハードルが高いでしょう。
また高速で回転するプロペラやモーターでケガをする恐れもあるため、荷物を受け取る際にもドローンの知見がある人材が必要になります。
現状では用途が限られるため、物流ドローンを導入しても、実際に業務として稼働させるまでには時間もお金もかかることが予想されます。
また、ドローンは精密機器であり天候の影響を受けやすいという特性があるため、どれだけ安全性能が向上しているとはいえ、いつでも活用できるわけではないということも考慮しなくてはいけません。
地域によっては風が強い日が多かったり、日本は毎年台風も数多く発生しますよね。
その他にも、人口集中地区のように飛行禁止区域も存在するため、気象条件以外にもさまざまな要件をクリアする必要があります。
ドローン技術進化
ドローンの技術の進化には、欠かせないいくつか需要な要素があります。
自律飛行技術の向上
ドローンは自立飛行により、事前に設定された経路を自動で正確に進んでいきます。
AIやセンサーテクノロジーは飛躍的進歩を遂げ、障害物を回避しながら目的地へ到着することが可能になって来ました。
長時間飛行と積載能力の向上
物流ドローンは遠隔地への物資の輸送や、急配サービスを提供する為に開発された無人航空機です。
空を自由自在に飛び回れても効率が悪いといけません。できるだけ遠くへ、そして可能な限りのたくさんの荷物を一度に運ぶ必要があります。当然飛行時間が長いほうがいいでしょう。
災害時であっても、直面したイレギュラーな問題にほぼリアルタイムでデータ収集や分析を行い、瞬時に効率的な航路設定やその時点での最適な空中輸送を行う事必要があります。
今回、世界シェアNo.1のドローンメーカーDJIから登場した最新の物流ドローン「DJI FRYCART 30」は、最大積載量30kg、最大航続距離28km、最大飛行時間は18分です。
これまでの物流ドローンは積載量が5kg未満のモデルも多かったため、より活用の幅が広がることが期待できますね。
センサー技術の向上
ドローンに搭載されている様々なセンサーは、安全に飛行するために欠かせない技術です。
位置情報を把握するGPS、危険を回避する障害物検知機能は特に重要です。
カメラやバッテリー性能だけでなく、あらゆるセンサーが組み合わされて正確で安全に飛行を行うことが可能になります。
世界各地での物流ドローンの商業利用
我が国では、印象がまだまだ薄い物流ドローンですが海外では積極的に利用されています。
アメリカのウォルマート社は、ドローン配送ネットワークを発表。
アーカンソー州、アリゾナ州、フロリダ州、テキサス州、ユタ州、バージニア州などで400万世帯に年間100万個の空中輸送が可能であると、さらなる拡大路線を推し進めています。
通販大手のAmazonにおいても、カナダやイギリスで実験的にドローン宅配を行い、満を持してカリフォルニア州からスタートしました。
20以上のプロトタイプを設計し、研究開発を推し進め、目視の必要なく遠くまで操作可能なセンス・アンド・アボイドシステムを開発、更に自社内に巨大プラットフォームも建設、独自の配送網とドローン開発技術も持っています。
間違いなくアメリカ以外の国と地域にも展開していくでしょう。
その他にも、たとえばGoogle社はアメリカ、オーストラリア、フィンランドですでに展開しています。
オーストラリアでは、最初の1ヶ月でなんと2,500件も配送したそうです。
緊急時における活用だけでなく、フィンランドではランチやスイーツが配送されました。
これらの他にも物流大手の米UPSは、医療用品の病院への輸送で事業を加速しています。
市場調査企業のMarketsandMarketsのレポートによりますと、世界の物流ドローンによる市場規模は2030年には約5兆3500億円まで拡大するという事です。
ここ日本においてはまだ実証実験が進められている段階ではありますが、2023年度から離島や山間部を皮切りにサービス拡大を図っています。
物流ドローンの法規制と課題
いかなる文明の利器も登場初期は異端の物です。
少しづつ現行の法律と折り合いを付けながら世間に認められて、その存在価値が高まっていくということは歴史が証明しています。
物流ドローンに対する評価も今日では賛否分かれていますが、関わる法律と課題として具体的にどの様な問題があるのか、どうすればクリアしていけるのか、何をもって安全だと証明するのかなどをきちんと考えていくことが重要ですね。
物流ドローンの安全性
便利なドローン輸送ですが、人の手によってプログラムされた精密機器が空を飛ぶ以上、事故が起こる可能性も勿論考慮しなくてはなりません。
一例として、
- 輸送の途中に何らかのトラブルが発生したことによる墜落の可能性
- ドローンが墜落した際に、人に物に被害を及ぼす可能性
- ドローンと荷物が盗難に遭う可能性
などが考えられます。
この中でも特に問題視されているのが「人に被害を及ぼす可能性が否定できない」という点です。
墜落時に第三者と接触、家や所有物にぶつかり、器物損害を起こす可能性をゼロにすることは非常に難しく、上から急に数十kgにもなる機械が落下してくるとなると避けることもできないでしょう。
車両輸送でドライバーが直接宅配するのとは異なり、荷物の途中落下や、誤配の場合、荷物とドローンがそのまま盗難されるトラブルも起こることも予想できます。
また、ドローンが街中を飛行する場合、カメラを有するドローンがマンション近隣を飛行すれば、プライバシーの侵害にもなりかねません。
こういった数々の問題で日本ではドローン配送の難しさがクローズアップされてしまっているという現状があります。
まとめ
物流ドローンの開発は確実に進化を遂げています。
現時点では、その開発スピードに法整備の方が追い付いて無さそうに感じてしまうかもしれません。
しかし、当然のことながら法規制なしに物流ドローンを解禁してしまえば、前述の通りあらゆるトラブルが起きることが想定されます。
何事も時間をかけて慎重に進めていく日本人の気質が、このような場面ではじれったく感じる方も多いとは思いますが、少しずつ、でも確実に物流業界のカタチは変化していくことになるでしょう。
災害大国である日本においては、一刻も早い社会実装の実現が望まれます。